新入社員の研修による成長と配属後の組織適応に関する調査

調査概要

目的

本調査では、「毎年開催する新入社員研修の品質向上」と、「新入社員の配属先での早期適応・パフォーマンス向上の実現」を目的に、以下の3つのテーマに基づいて分析を行った。

分析テーマ 概要

  • 2023年度の新入社員の弱点や、研修中の躓きポイントを明らかにする。
  • 新入社員研修中に成長する人とそうでない人の差異を明らかにする。
  • 配属後の早期適応やパフォーマンス向上の要因を明らかにする。

対象者

株式会社NTTデータ ユニバーシティ(以下、弊社)が、2023年にNTTデータのグループ会社に提供した新入社員向けカリキュラムにおいて、共通科目を受講している新入社員

調査結果(新入社員の研修での成長)の概要

新入社員の特徴

  • 情報系学部出身が約1割程度に留まり、半数以上が文系。
  • 意識面では、仕事優先で苦労をいとわない実直型が最多。職場配属後は仕事・人間関係両面の丁寧なサポート(仕事場面で生じる問題に伴走するようなアプローチ)が有効であると考えられる。
  • 新入社員研修受講前時点のスキルでは、総得点が平均35.3(中央値:25.1)/100点満点であった。アルゴリズム問題の得点率88.0%に対して、その他の問題の得点率はIT知識が3.9%、コーディングスキルが24.2%と低い傾向にあった。
図 1 出身学部(文系・理系)

新入社員研修の修了状況

  • 基礎的な内容の科目において8割を超える新入社員が修了基準を満たしており、「ものづくりのできる人材」となる第一歩を円滑に踏み出すという新入社員研修の目的は達成されたと判断した。

新入社員研修で成長する社員の特徴

  • 成長した社員は成長しなかった社員と比較して、研修開始直後からIT知識の習得を得意としていた(有意差あり)。
  • プログラムを処理するためのインプット状態・アウトプット状態・処理手順の理解で有意差あり。成長する新入社員はプログラム表現(配列の添え字で変数を使った汎化等)を正確に読み取ること・考えることができると推察される。
  • Javaプログラミング基礎及び応用科目では、成長した社員は成長しなかった社員と比べ達成イメージを明確にして振り返りをしていた(有意差あり)。
  • ITリテラシーレベルが低い(レベルEと設定された)新入社員に対して、ITリテラシーレベルのばらつきが大きいグループに所属するようにグループを編成することで、彼らの研修での成果および成長を促す可能性が推察された。
表 1 Javaプログラミング科目での成長した社員と成長しなかった社員の有意差

調査結果(配属後の組織適応)の概要

新入社員の組織適応状況

組織適応状況を構成する4要素(職業的社会化、文化的社会化、情緒的コミットメント、仕事のやりがい)*1のうち1要素を除いて平均値が3を超えており、新入社員の多くが組織適応できていたと判断した。(職業的社会化のみ平均値が2.67と中間点である3を下回った)

*1分類・項目は『若年就業者の組織適応: リアリティ・ショックからの成長』(著:尾形 真実哉)を元に設定。

表 2 組織適応状況を構成する4要素の平均値と標準偏差

新入社員の組織適応に影響を与える要素(職場環境)

  • 職務特性(重要で裁量のある仕事にアサインされる)、上司特性(仕事目的を伝え成長のためのフィードバックをする)、職場風土(社員が積極的に学習する・助け合う)は、すべて組織適応に正の影響を与える。(組織適応の高群・低群で有意差あり)
  • 特に職務特性では否定的回答割合が組織適応高群(12%)と低群(39%)と低群ほど割合が高かった。否定的回答と組織適応の低さの関係性が示唆され、本人にその仕事をアサインする意味を丁寧に説明し本人に仕事の進め方をある程度任せることが有効と考えられる。

新入社員の組織適応に影響を与える要素(研修成果)

Web技術やJavaプログラミング基礎の基礎知識は組織適応に正の影響を与える(組織適応の高群・低群で有意差あり)。研修での学習内容が業務へ活かされている可能性が示唆された。

新入社員の組織適応に影響を与える要素(行動および心理的特性)

  • 新入社員の自己指向型行動(自己を高める学習やアイデア提案をする)、他者指向型行動(他者と良好な関係性を構築)、仕事指向型行動(仕事上の工夫や目的の捉え直しをする)はすべて新入社員の組織適応に正の影響を与える。(組織適応の高群・低群で有意差あり)
  • 特に「自己指向型行動」「他者指向型行動」で否定的回答割合が組織適応高群(9%と9%)と低群(31%と27%)で低群ほど割合が高かった。否定的回答と組織適応の低さの関係性が示唆され、本人に積極的な問題解決や新しいアイデアの提案を促すことや、社内の人間関係構築の仲介などが有効と考えられる。
  • 自己効力感(努力すれば大抵の物事に対処できると思えること)がある新入社員は組織適応が高い傾向がある。

最後に

  • 今回の調査結果では、新入社員研修で成長する社員はプログラム処理(インプット・アウトプット・プロセス等)の理解、達成目標のイメージと振り返りで差があることが明らかになった。また弊社が提供する新入社員研修の一部は組織適応に正の影響を与えることが分かり、加えて上司をはじめとした職場環境や本人の行動が組織適応に影響を与えることが分析を通じて判明した。
  • このようにピープルアナリティクスを用いれば一人一人の心理的特徴・能力・行動を可視化しつつ成長や組織適応への影響を明らかにすることができる。
  • 就労人口が減少するこれからの日本社会では人材の獲得・育成・リテンションがますます重要度を増す。ピープルアナリティクスを用いることでこれらを高度化し、企業の事業へと貢献することが可能となる。弊社でもお客様のピープルアナリティクスとそれが目的とする事業を支援をしていきたいと考えている。